4限：黒麹菌ともろみ酢

1～3限では、もろみ酢ができるまでに出てくるキーワード「微生物」「発酵」「醸造」「麹菌」をご紹介してきました。4限では、もろみ酢の中でも泡盛から作られる琉球もろみ酢にとって、とても大事な「黒麹菌」について、ご紹介しようと思います。

・いろいろな黒麹菌

黒麹菌はクロコウジカビともいわれ、胞子の色が黒褐色をしている麹菌のことをいいます。夏場に放置した食パンなどを黒くする(青いのとはまた別のやつですね)汚染カビとしても身近ですが、泡盛づくりに欠かせないクエン酸や有機酸の製造に用いられるなど、食品産業分野でも、非常に貴重なカビです。泡盛菌として知られている黒麹菌には、イヌイ菌・ウサミ菌・アワモリ菌・アウレウス菌・サイトウイ菌、そして八丈島のイモ焼酎工場より分離されたバタテー・サイトウ菌といった菌種が存在します。現在、泡盛の製造に使用されている主な黒麹菌はアワモリ菌とサイトウイ菌の2種類があります。また、泡盛を造る際に使われる2種類の菌は、どちらか一方を利用するのではなく、2種類の菌を混ぜることが多いようです。これは、それぞれの菌がもつ特徴をうまくブレンドするためともいわれています。例えば、サイトウイ菌は穀物のような香りがし、米の香りや旨味、鼻から抜けるときのカラメルが焦げたような香りを味わいを感じることが特徴のようです。また、アワモリ菌は果実のような香りと青りんごに似た酸味、そして甘酒に似たもろみの甘い香りが特徴のようです。これらの香ばしさとさわやかさをうまく引き出すのも、蔵ごとの腕の見せ所といえるでしょう。

・焼酎にも黒麹

これまで泡盛には黒麹が大事で、黒麹は沖縄ならではの菌であることをご紹介してきました。しかしこの黒麹、実は焼酎を造る際にも大活躍しているのです。沖縄のものと違い、本土の焼酎は明治時代まで日本酒と同じく黄麹菌を使って製造されていました。しかし、黄麹菌の産生する乳酸では、夏の暑い時期のアルコール発酵のもろみの腐敗を防ぎにくいのが欠点でした。しかし、熊本税務監査局鹿児島工業試験場で、技師及び酒の鑑定官として当時赴任していた「河内源一郎氏」が目を付けたのが、熊本より暑い沖縄で造られている泡盛でした。河内氏は黄麹菌で造る焼酎が腐ってしまうと様々な人から相談を受け、沖縄の泡盛酒造書から採集した黒麹菌を持ち帰り、研究を重ねました。そしてその結果、夏でも腐らない焼酎造りに大きく貢献することとなりました。特に、焼酎メーカーにとっては黒麹菌は雑菌に強いという特徴を持つだけでなく、芋のデンプン質を糖化する能力にも優れていたために、アルコールの収率が良くなるというありがたい菌でした。もちろん、現在一般的に使われている白麹菌も昭和に入ってから同じく河内氏によって突然変異の「白麹菌」として発見され、広まっていきました。現在では焼酎の約80%が白麹菌で造られているそうですが、その背景にはどうやら使い勝手の良さが挙げられているようです。というのも、黒麹菌は、菌糸も黒く飛び散って服や屋内を黒くしてしまったり、作業員の顔も鼻の穴まで真っ黒・・・笑・・・ということで、白麹菌にはそういったことがないため今ではほとんどの焼酎メーカーが使用しているそうです。

・黒麹菌「世界遺産へ」

沖縄にはラフテーや豆腐ようなど泡盛を使った琉球独自の食文化がありますが、それに加えて黒麹菌を使った酒づくりは世界で唯一、泡盛だけとされています。というのも、黒麹菌は世界中を見渡しても沖縄諸島や先島諸島だけに分布するといわれており、約460年前にタイから伝わった南蛮酒を沖縄流にアレンジしたものが泡盛だといわれています。そしてこのたび、黒麹菌を使った「琉球泡盛」の、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界無形文化遺産への登録をめざひて、準備委員会(世界遺産登録推進委員会)が発足したそうです。なんだかすごい響きですよね。この無形文化遺産ですが、世界遺産や記憶遺産と並ぶユネスコの遺産事業の一つとされています。最近では世界遺産に富岡製紙工場が、そして無形分化遺産には「和食」が登録されましたね。この無形文化遺産は、いわゆる芸能、伝承、社会的習慣、伝統工芸技術などが対象となるそうです。例えば能楽や人形浄瑠璃文楽、歌舞伎などのもろもろが登録されているようです。琉球泡盛はとてもおいしく、また、フルーツ風味のもろみ酢を入れても飲みやすいと思います。皆様もぜひ取り入れてみてください。